芥川龍之介短篇集

芥川龍之介短篇集

芥川龍之介って、十年以上前に読んだきり、読んでなかった。んでも、いつかまたちゃんとまとめて読み返してみたい、読んだことがないものは新たに読んでみたい、とは思っていた。ので、村上春樹の英訳をしているジェイ・ルービンが選んだ短編集を見つけて、ああ、これはいい機会だ、と思って読んでみた(発売されたのは去年らしい)。

もう、むちゃくちゃ、べらぼうに面白いのね。芥川をいまさら、おもしろいよね、って言うのも、「肉の多い大乃国」って後ろから読んでも、肉の多い芝田山親方だね、みたいなことを言ってる感じで申し訳ないんだけれども、って、あれ! 大乃国いつのまにか引退して、親方になってる! よくわからないけど、年寄株! 年寄株! みたいな感じはあるし、もうわけわかんないよ、今、途中で大乃国が何親方か調べたもんね。なんか、検索候補? ランキング? みたいなので、大乃国、スイーツ、って出てきて、いや、わかるけど、わかるけど、なんか、すごい、って思ったりした。

まあ、とにかく、芥川おもしろいよ、って改めて思って、ほんとにすごかった、ってことなんだけど。「鼻」なんて読みながら、声に出して笑ってしまった。ほんとに初期のころは文章がうまいというか、鋭くて切れがあって、テンポとリズムが素晴らしい。これを才能と言わずに何と言おうか、ってくらいに、才気あふれる文章がつづられているし、それがちゃんとグルーヴ感を生みだしているから、言葉が古くても全然読みやすいし、引きつけられる。これが、色褪せない、風化しない、ってことなんだなあ、と感じさせられた。今、グルーヴ感って書いて、初めて気づいたんだけども、とにかく、ほんとに風化しない理由の一つは、そこにあるんじゃないか、と思う。

それでいて、後期の圧倒的に陰鬱で、もう、死ぬ死ぬ詐欺じゃん(結局、詐欺じゃないんだけどさ)、ってくらいの、死を意識した小説ってのも、身につまされる思いがする。痺れるくらいの、苦しい、感じ。身を削って、消耗しながら書いている感じがする(それもまた、芥川の技量を生かして、フィクション的に、消化している部分は当然あるんだろうけれど)。そうした、後期の作品をじっくり読むのは初めてだったので、新鮮だったし、読んでいて、息苦しさも感じた。それもまた、読み物として、ものすごく、おもしろかった。

まあ、春樹大好きっ子(あえて、自称することさえ恥ずかしくすらあるけど)の僕は、春樹が序文として書いた、芥川論みたいなものを読むだけでも、相当おもしろかったのだけれど。