「アフターダーク」村上春樹

新作が出ることをすっかり忘れていたよー。なので、今日、あわてて買って、早速読んだよ。
なんていうか、読みやすいね。さくさく読んだよ。なんだ、この新しい試みしてみてます感は、とか思いながら、さくさく読んだよ。

とりあえず、僕は今更、村上春樹の新しい作品が出ても、まともに、おもしろいかどうか、っていう判断も出来ないし、というか、どういう作品でも、「こういう風なことを今書くんだー、今度はこういう書き方なんだー」ということだけでも、わくわくしながら読んでしまうので、この作品にしても、同じで、ほんと、おもしろかったよ。
今風の言い方をすれば、普通におもしろかったよ。
まあ。普通に、ですって。

だけども、おもしろかったけれど、どうなのさ、って思うこともいっぱいあって。
若者を描く、だなんて、はっきり言って無理だと思うけれど、もう明らかにリアルとはほど遠いけれど、春樹の小説でリアルだったことなんて何一つないし、そこがおもしろさの対象でもなんでもないので、どうでもいいんだけど、そのリアルでもないし書きなれてもいない若者が饒舌過ぎると、いやだなあ、って思う。
なるべく、すごい風俗を反映して書こうとしているのが分かるし、そういう跡が見えるからこそ、その世界の中での、言葉の一つ一つが、ピントがずれてしまう気がする。今までなら、そうじゃない世界で、饒舌で、リアルじゃないセリフを言っても、気にならなかったし、むしろそれが好きだったんだけども、感触として。だけど、そうじゃないから。どこか、まだ、アジャストできていない感じがすごいする。
出たー、いかにも春樹が大好きそうな、春樹大好きっ子が大好きそうな、アジャストという物言い。

んー、それで、やろうとしていること、到達しようとしていることはすごく高いところで、だからこそ、いつも以上に習作の匂いがぷんぷんとする、この作品の感じは、あざとくてあざとくて、下手すると、言おうとすることすら、ひどく凡庸にすら感じられるところで、そういう意味で、ぎりぎりな感じがした。ぎりぎりなところで向き合っているなあ、と。楽をしない人だなあ、なんて。
もちろん、こうした変化をおもねりだとか退行だとか駄作だとか、才能枯れたとか元からつまんなかった、とかどんなことでも言えるんだけど。そういう隙の多すぎる作家だなあ、とも思うけど。だからこそ、好きなわけだし、揺り動かされるわけだけど。

僕として、すごく救われた感じがするのは、終わり方、ってわけじゃなくて、なんとなく、チープにすら思える、終わりの朝の場面が、結構眩しくて、輝かしく感じられて、そういう風に思えて、よかった。姉妹が朝を迎える場面が、その部屋の描写が、すごく眩しかったんだよなあ、文字通り。その感触を抱いたことが、なんとなく、読んで、おもしろかった、というか、よかったなあ、って思えたのだ。うまく言えないけど。

んー、とことん抽象的だぜー。ここに書いてること全てが抽象的だー。
というわけで、また少し時間を置いて、もう1度読み返したいと思うのです。
さらに。
あー、早く、春樹の新作出ないかなー。なんて、すでに思っているよ。