「ソングブック」 ニック・ホーンビィ

ソングブック (新潮文庫)
音楽に対する情熱というものが、自分に果たしてあるのか、そしてそれが日々、年を取るにつれて、さまざまな音楽を聴くにつれて、失いつつあるのか、そういうことはよくわからないのだけれど、ある意味では鈍化したかもしれないし、ある意味では感受性が強くなっている気もする。それが普段、音楽を聴いていて、新しいCDなどを聴いていて、それで気持ちが揺り動かされることが、その状況によって、その時その時によって、すごいばらついていて、そういうのは、当たり前のことなのかもしれないけれど、なんだか時々すごく戸惑う。あれ、どうして、今日は、この曲であんまり気分が乗らないんだろう、とかそういうことだ。
僕は、偏りもあんまりなく、マニアックでもなく、普段、ただ、なんとなく音楽を聴いているけれども、そういう中でも、曲にまつわる思い出とかがあって、そのイメージは鮮烈に残っていたりする。例えば、「ドアをノックするのは誰だ?」、「コンプリートコントロール」、「冷たい頬」、「シーソーゲーム」、「桜の時」、「JAM」、「サーフワックスアメリカ」、「リリィ」。などなど。なんてひどいラインナップだ、と思われるかもしれないけれど、こういうのは仕方がない。仕方ないものがたくさんある。ていうか、現実は、そういうものばかりだ。そういうのって、案外、えり好みができないもんな。僕だって、出来たら、「コモンピープル」で思い出が欲しかったよ。いや、それはいらないけど。パルプの意味が分からないけど。でも、ほんと、なんか、JELLYFISHの曲とかで思い出が欲しかったよ。「the king is half−undressed」とかさ。
でたー、なんか、おしゃれっぽいかも、という発想。JELLYFISH言うとけばいい、みたいな発想。
だけどね、僕、思い出の曲、なんと、小5の時までさかのぼれば、「二人の夏物語」。それは、何のどういう思い出だ、という感じだけども、でも、本当に。杉山清貴オメガトライブ。カルロストシキオメガトライブには、何の思いでもないよ、1000%。

でも、ここ数年に限って言えば、そういう曲と密接な思い出、イメージが強烈に蘇る曲、っていうのがあんまりないなあ、って思う。まあ、それは、あと何年かしてみないとわからないわけだけど、でも、なんとなく。例えば、マルーン5のTHIS LOVEが残るかどうか、分からないもんな。ビークルは、案外、思い出しそうだけど。あとは、ASHは、最近、今更なカがらに、どんどん強烈になってくる感じがするけど。でも、そういうのが実感として、よく分からなくなってくる。

という前提で話すけど、音楽について話す時ってのは、音を言葉にすることが非常に難しい作業だから、結果、個人的なことでしか語れなかったりすると思う。そうなると、次から次へとイメージを思い出に置き換えて、言葉にして託さないといけない。つまり、ある曲について、本当に語ろうとするならば、全て語るか、全く語らないか、でしかないと思う。あとは、ごまかしでしかない。僕がこのダイアリーで書いている曲については、ほとんど、全く語らずに、抽象的に言葉を使って、感想を述べている、っていうだけだ。
そういうアプローチでしかない。

そういう意味で言えば、このニック・ホーンビィの「ソングブック」は、それぞれの曲について、全てを引き受けて、語っている、と思う。それは評論でもなく、ただの個人的経験にまつわる思い出と感想だ。だからこそ、知らない曲でも、僕は彼本人のバックフィールドを感じることで、少しだけ、その曲のことを知った気になるし、好きになりそうだ、という予感を抱くことが出来る。そういうのって、結構素敵なことだ。
それに、彼が書いている曲については、愛があるから、すごく気持ちいい。もちろん、ある曲について書く時に、別のアーティストについて悪く言うことがあるし、それが自分の好きなアーティストだったりして、ちょっとへこんだり、むかついたりもしたけど(解説の人もそんなこと言うてたけど)、それでも、ほんとに、音楽がどれだけ彼に大切なものなのか、どれだけ愛しているか、それががんがんに伝わってくる。
彼の「ハイ・フィデリティ」を読んだ(もしくは映画で見た時)、なんて音楽を愛し、その反面、チープな音楽を憎んでいるんだ、と思ったんだけれど、そして僕はここまで好きになれないなあ、と思った。もちろん、なんてひどい曲なんだ、と思うことは普段からちょくちょくあるけれど、なんだろうな、もうそこまでいくと偏執的というか、神経症すぎるというか、そんな感じして、でも、そういうところが、彼を彼たらしめている気もして、そういう部分をすごくうらやましくも思ったなー。

そして、「アバウト・ア・ボーイ」が映画になって、まだ映画も原作も読んでないというのに、そのサントラ(BDB)がすっごい良くて、素敵で、再び、全ては繋がっているんだ、なんて思って、とても心地よい気分になったりして。でも映画も原作も読んでないんだけど。だけど、このニック・ホーンビィっていう人はすごく好きだし、どういうことを書くのか、今後も気になっていくなー。と、この本を読んで再び思いました。
僕ももっともっと音楽を好きになりたいな、映画ももっともっと好きになりたいな、と思った。もちろん、それは意識して好きになるようなものでも、そういう意識すら間違っているってことなんだろうけど。

そして、出来たら、誰かが好きであろう、僕にとってはくだらない音楽などをなるべく嫌いにならずに、出来たら、無関心でいられたらいいな、とも思った。
でも、偏執的でもいたいなあ、そういう矛盾した思いもあるのは確かなんだよなあ。