「ゼブラーマン」5巻 山田玲司

ゼブラーマン 5 (ビッグコミックス)

ゼブラーマン 5 (ビッグコミックス)

いい加減、この漫画おわんないかな、と思いながらも、終わった。ようやく、という感じが強い。なんていうか、きっちりと5巻にまとめていながらも、だらだら感がある。

基本的に、山田玲司の言うことは、ものすごーく、理想主義で、痛い、という印象がある。それはどんな漫画でも、ずっとそうだった。とあるシーンや、モノローグや、状況において、あるいは本人自身を、シニカルに見せようとしても、偽悪的に見せようとしても、本質として、すごくロマンティストで、理想を捨て切れない、そんな気がする。気がする、っていうか、偽悪的に見せようとしているけれど、ほんとはロマン溢れる理想主義者だよ、そんな弱くも誠実な俺だよ、というのまで、わざと見せているのか、見せていることをそれでもいいや、と思っているのかは分からないけれど、とにかくそういう印象をずっと持っている。

で、痛いことや理想主義、ロマンチックなこと、ってのは、痛い分だけ、それだけ人を惹きつける要素を充分すぎるほどに含んでいて、それが漫画やら映画やら小説で、見る分には、いやなことではなくて、とても、魅力的に見える、ということも多い。
だけど、それで描いている本人が自家中毒に陥っていまう、というようなことも多々見られる。そういう場合は、ただ、自分に酔ってるだけじゃないか、と完全に作り手の一人よがりを、他者が楽しめない、という状態になってしまうのだけれど、もちろん、そうじゃない作品も多かったりする。そして、僕は、そういう作品が嫌いじゃない。というか、むしろ、好きだ。
山田玲司を好きなのも、そういう理由によるんじゃないかな、と思ったりする。

で、そういうことを臆せずに、作品ごとに詰め込んでくる山田玲司の漫画は、時に、すごいうざったくって、好きじゃないものも多い。読んでいて辛い、というのも多い。
そして、ゼブラーマンは、僕にとって、ある意味では、すごく山田玲司らしいけれども、なんか、全体的に、うざったく感じられる漫画だった。先ほど言ったように、魅力はあるのに、完全に、自家中毒に陥っているような、作者のロマン主義に読むほうがついていけないような、そんな感じがした。
突っ走ったロマン主義みたいなものが、受け付けられなかったのは、やはり、主人公がおっさん、という設定によるんじゃないかな。と思う。僕には、そういう、なんだか夢見がちな、理想論に走って(その理想と現実との葛藤も含めて)、そして実際にその理想論に沿って行動する、貫く、という姿勢を家族を持っている大人が、中年が、あまりに純粋に見えて、すごい痛々しかった。別におっさんだからいけない、というわけじゃないんだろうけど、なんていうか、ものすごく、愛とか希望とか、そういうものに全てをかける、というところが、おもしろく感じられなかった。現実ともがいて戦っている、葛藤している、というところが弱すぎるように思えた。ほんと、理想が全然先走りすぎなんじゃないか、というか。そんなおっさん、少しもリアルじゃないし、キャラもいきていない、というか。生々しくない、というか。
中年だからこそ、描く意味がある、と思っているのかもしれないけれど、僕は、そこはピンとこなかった。最後までピンとこなかった。
いくつになろうが、関係ないことなのかもしれないけれども、やっぱり、中年の漫画じゃない以上は、中年を主人公にしても、読んでいても、ぴんとこないんじゃないかなあ、と思う。だからこそ、映画とはかけ離れた展開になっていく分、あれれ、という感じがする。
山田玲司が思うことを詰める枠としては、もともと人が作ったものじゃ、だめなんじゃないかなあ、だからこそ、もったいないなあ、と思う。本当に、青いことや、夢見がちで、理想主義で、痛々しいことは、好きなのだ、僕は。そして、そういう要素を持っている、前面に押し出してくる、頭でっかちじゃない山田玲司も好きなのだ。そういう好みってのは、多分、自分が中年になっても、それはあまり変わらないんじゃないか、とも思っている。だけども、それと、中年が主人公になることは、また別の話だ。若い時の気持ちをそのまま、中年に、シフトしたらいい、というわけじゃない。

なんだろうな。もちろん、ゼブラーマンでも、ぐっとくるようなシーンやセリフってのはあるんだけれど、あんまり厚みがない、というか、キャラクターと根付いてないなあ、という印象があったりして、すごいもったいなかった。それはやっぱり山田玲司の言いたいであろうこと、っていうのが、あまりにも見えすぎちゃって、というか実際にはどうかわからないけれど、そう見えちゃうところが、残念に感じる。ほんとに。あまりにも終わり方もまた、こうなるしかないよな、というか、ほんと、何の山場もないような、そんな、残念な感じだった。

言いたいこと自体には、痛いと知りつつものすごく共感出来たとしても、漫画という手段で表す以上は、設定や方法論によっては、全然受け付けない、というか、それが余計にもったいなく感じる、ということもあるのだなあ、とつくづく感じた、そういう意味では、とても貴重な漫画だった、と思う。無理矢理結論づけるならば。でも、つまんないのと、おもしろいのとの繰り返しが、らしいと言えばらしい。そういうところも含め、嫌いじゃない。むしろ、大肯定だー。