「トゥルー・ストーリーズ」ポール・オースター

オースターの新刊が出た、と思って、わくわくして買ったらば、エッセイ集だった。でもそれでも彼が書いたものを読めることはすごく幸せだ。
オースターの作品に一貫しているのは、偶然、嘘のような真実、奇妙でおかしな話、などという、まさに、フィクションと現実の境目、リンボのようなところを丁寧に描いている、ってことだと思うんだけど、それが彼のエッセイにおいても、そうした嘘のような本当の話、まさに小説よりも奇なる事実、という話を書いていて、彼の小説の真裏、にあるような読み物だなあ、と思った。対極じゃなくて、真裏。
うまく言えないけれど、フィクションであろうが、事実であろうが、あるポイントを過ぎると、その偶然の奇妙さは、しっかりとリアルに息づき始める、ってことなんだなあ、って思った。自分で何を言ってるのか分からないけど。
でも、そうした、リアルな偶然、奇妙はストーリーというものをエッセイであろうが、小説であろうが描くことは、紛れもなく並み外れた着眼点と発想力がないと出来ない、まさに才能の賜物だなあ、と思った。
というわけで、このエッセイを読んでいて、まるで彼の小説を読んでいるかのような、そんな錯覚すらあった。

僕は、小説家にとって必要なのは、様々な体験をするか、でなく、1つの体験をどれだけの角度から見れるか、という資質だと思っていたし、それは今も変わらないんだけれど、オースターのエッセイを読むと、すごい体験ばかりをしていて、いろんな体験することも大事なんだろうなあ、などと当たり前のことを前提にわざわざ考えてしまうほどだった。
それくらい、オースターの人生は波乱に飛んでいたし、彼の周りでもそうだ。

彼ほどの才能がある作家が、軌道にのるまでは大変な困難が待ち構えていたし、日々浮き沈み、といった生活だったことは、この本を読んで強く感じた忘れてはいけないポイントだ。もちろん、そうした苦難の過去があるからこそ、今の彼と彼の作品があるのだ、という言い方も出来るけれど。そして、きっとそれが正しい見方なのだろうけど。
だからこそ、彼がその謎にふれようとしている人生というものは、いつだって奇妙で圧倒的にリアルなのだろうけど。